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神戸地方裁判所 昭和56年(ワ)1167号 判決

原告

井尻博明

被告

株式会社きらく

主文

一  被告は、原告に対し、金三一八万〇八〇〇円及び内金二八九万〇八〇〇円に対する昭和五六年四月一三日から、内金二九万円に対する昭和五六年九月一日から、それぞれ支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を被告の負担とし、その一を原告の負担とする。

四  この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金四八二万四六三〇円及び内金三六四万九六三〇円に対する昭和五六年四月一三日から、内金七七万五〇〇〇円に対する昭和五六年九月一日から、それぞれ支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

訴外住野盛夫は、昭和五六年四月一二日午後一〇時五〇分ころ、神戸市中央区生田町二丁目三の三、田所幹雄方前路上において、原告所有の自家用乗用車(ドイツ製アウデイ一九八〇年型、神戸三三た一六―五八)を過失によつて暴走させて右田所方の石垣に激突させ、もつて右車両を大破させて全損せしめた。

2  被告の責任

右住野盛夫は被告会社の従業員であり、右事故は被告会社の事業の執行につき惹起されたものであるから、被告会社は右事故につき民法七一五条の使用者責任を負担すべきである。

3  原告の損害

(一) 車両損害 金三三〇万円

車両全損の場合は事故時の交換価格が損害額の基準とされるところ、右事故時における前記車両との同種の車両の市場価格は金三三〇万円である。

(二) 代車使用料 金七〇万五〇〇〇円

神戸市兵庫区東山町において井尻住建という屋号にて宅地建物の分譲販売業を営む原告としては、車両の使用はその営業上不可欠であり、本件事故後タクシーを利用している。

そのタクシー利用代金は一日平均金五〇〇〇円であり、事故翌日から昭和五六年八月三一日までの一四一日間の代車使用料は合計金七〇万五〇〇〇円となる。

(三) 事故車両引取り及び事故車両検査協会査定料。

金一万円

(四) 事故車両保管料 金六万円

前記車両の保管料は一か月宛金一万五〇〇〇円であるから昭和五六年五月一日から同年八月三一日まで合計金六万円となる。

(五) その他の損害 金三四万九六三〇円

前記車両を事故時点で購入するには右(一)記載の金員が最低必要であるが、その他に購入した車両を乗用車として使用するには更に次の金員が必要である。

〈1〉 検査登録諸費用 金四万八〇〇〇円

〈2〉 自動車税 金六万五〇八〇円

〈3〉 自動車取得税(取得価格の五パーセント) 金一六万五〇〇〇円

〈4〉 自動車重量税 金三万七八〇〇円

〈5〉 自賠責保険 金三万三七五〇円

(六) 弁護士費用 金四〇万円

4  よつて、原告は、被告に対し、民法七一五条に基づく損害賠償として、金四八二万四六三〇円及び内金三六四万九六三〇円に対する事故の翌日たる昭和五六年四月一三日から支払いずみに至るまで、内金七七万五〇〇〇円に対する昭和五六年九月一日から支払いずみに至るまで、それぞれ民法所定の年五分の割合による損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、住野盛夫が原告主張日時場所において過失により原告所有の車両を石垣に衝突させたことは認める(以下右事故を「本件事故」という。)。その結果、本件車両を破損せしめたことは認めるが、全損せしめたとの主張は否認する。

2  請求原因2の事実は認める。

3  請求原因3の事実は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生

請求原因1のうち、訴外住野盛夫が原告主張の日時・場所において、過失により原告所有の車両を石垣に衝突させ、その結果、右車両が破損したことは、当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第一号証の一によると、右車両はドイツ製アウデイ一九八〇年型であると認められ、これに反する証拠はない(右車両を以下「本件車両」という。)。

二  被告の責任

請求原因2の事実は当事者間に争いがないから、被告は、本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。

三  損害

1  車両の損害 金二七一万七八〇〇円

前記争いのない事実に、いずれも成立に争いのない甲第二、第三号証の各二、同第八号証、乙第一号証及び証人広部久義、同栗本宜俊、同岩田逸夫の各証言を総合すると、本件車両は、本件事故により相当程度破損し、車両の骨格に相当する部分の一部も破損したが、物理的には修理可能であり、右骨格部位にひずみはなく、右損傷は必ずしも重大なものではないこと、また、後に見るとおり、修理費用と修理後の事故減価とを合わせても、本件車両の事故当時の価格を下まわることが認められ、これに反する証拠はない。

これらの点にかんがみると、本件車両が物理的又は経済的に修理不能と認められる状態になつたとはいえず、また、原告において買替えをすることが社会通念上相当とも認め難いというべきであるから、本件にあつては、車両価格そのものを損害として請求することはできず、修理費用及び修理後の減価による損害を請求しうるにとどまると解すべきである。

(一)  修理費用 金二三〇万円

前掲甲第八号証、乙第一号証によると、本件車両の修理費用は金二三〇万円と認められ、証人栗本宜俊の証言中には金二三五万円を要する旨の証言があるが採用せず、他に右認定に反する証拠はない(なお、右金二三〇万円は、本件車両を解体せずに破損状況を調査した結果に基づく推定修理費用であり、実際に修理すれば右以上の費用を要する可能性も全く否定することはできないが、右以上の費用を要すると認むべき証拠はない。)。

(二)  事故減価による損害 金四一万七八〇〇円

成立に争いのない甲第九号証及び証人栗本宜俊の証言によれば、修理後になお残る事故減価による損害額は、金四一万七八〇〇円と認められる。証人広部久義の証言中には、右認定判断に反するかにみえる証言部分もあるが、採用し難い。

2  代車使用料 金一五万円

原告本人尋問の結果によれば、原告は、神戸市兵庫区において井尻住建の屋号で宅地建物の分譲販売業を営み、本件車両を営業のために使用していたこと、本件事故後、昭和五六年九月一日に代替車を購入するまでの間、営業のためにタクシーを利用し、一日当り最低金五〇〇〇円を下まわらない出費をしたことが認められ、これに反する証拠はない。

しかし、前認定のとおり本件車両は修理が可能であり、買替えを相当とする事情があつたとは認め難いから、右期間すべてにつき代車使用料を被告に請求しうべきものとは解されず、修理に通常要する期間についてのみ請求しうるとするのが相当である。本件において右修理必要期間を示す証拠は見当らないが、一般に車両修理期間は通常は一〇日ないし二週間ともいわれているところ、本件車両が外国製車両であることをも考慮すると、右期間は一か月(三〇日)とするのが相当である。

そうすると、代車使用料としては、金一五万円が相当である。

3  車両引取り及び査定料 金八〇〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六号証によると、原告が本件車両の引取費用金二〇〇〇円を要したことが認められるが、前掲甲第八号証及び乙第一号証によると、右費用は前記修理費用金二三〇万円に含まれていることが認められるから、これを別途請求しうべきものとするのは相当でない。

右甲第六号証によれば、原告が車両の査定料として金八〇〇〇円を要したと認められる。右は、車両の買替えを前提としたものではあるが、修理を想定した場合でも、車両価格の査定の必要がないわけではなく、右金額は、本件事故と相当因果関係ある損害と認むべきものと解される。

4  保管料 金一万五〇〇〇円

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七号証及び原告本人尋問の結果によると、原告が本件車両の保管料として一か月金一万五〇〇〇円を要したこと、原告は証拠保全の目的もあつて昭和五六年八月三一日まで本件車両を業者保管させたことが認められ、これに反する証拠はない。

ところで、証拠保全のためには、別途民事訴訟における証拠保全手続その他の方法であるのであるから、右保管料のすべてを被告に請求しうるとすることは妥当でなく、前認定の修理期間にてらすと、保管期間は一か月とするのが相当である(修理の場合に修理費用と別個に保管料を要するか疑問がないではないが、保管者ないし修理業者から保管料を請求されることがないとする資料もないので、右保管料を本件事故による損害と認める。)。

5  その他の損害

原告は、右のほか代替車両の購入を前提とする諸費用を請求するが、右の請求は失当である。

6  弁護士費用 金二九万円

以上の合計は金二八九万〇八〇〇円となるところ、本件訴訟の難易、認容額その他の事情を考慮すると、被告に請求しうべき弁護士費用は、金二九万円とするのが相当である。

7  合計 金三一八万〇八〇〇円

四  結論

以上のとおりであるから、被告は、原告に対し、本件損害賠償として金三一八万〇八〇〇円及びこのうち弁護士費用を除く金二八九万〇八〇〇円に対する原告の請求する不法行為の日の翌日である昭和五六年四月一三日から、弁護士費用金二九万円に対する不法行為の後で原告の請求する昭和五六年九月一日から、それぞれ支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきものである。

よつて、本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岩井俊)

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